五十代を過ぎた頃から、鏡を見るのが少しずつ怖くなっていきました。若い頃は自慢だった豊かで黒い髪が、いつの間にか勢いを失い、分け目の地肌が白く光っている。その現実から目を背けたくて、美容院に行く足も遠のき、人に会うことさえ億劫になっていきました。薄毛は、私の心から自信という名の光を静かに奪っていったのです。藁にもすがる思いで、インターネットで評判の育毛剤を試し、高価なサプリメントを飲み続けました。しかし、目に見える変化は訪れず、焦りと失望だけが募る毎日。排水溝にたまる髪の毛を見るたびに、「またこれだけ抜けてしまった」と落ち込み、そのストレスがさらに抜け毛を増やすという悪循環に、完全に陥っていました。そんなある日、娘から「お母さん、最近なんだか暗いよ。髪のことで悩んでるなら、思い切って髪型を変えてみたら?今のままで素敵に見える方法、きっとあるよ」と言われました。その一言に、私はハッとしました。私は、失われたものを取り戻すことばかりに必死で、今の自分をどう輝かせるか、という視点を完全に見失っていたのです。勇気を出して、何年も通っている美容師さんに正直な悩みを打ち明けました。彼は私の話をじっくりと聞き、こう提案してくれました。「長いと重みでトップが潰れてしまうから、思い切ってショートボブにしてみませんか。トップにボリュームが出るようにカットすれば、分け目も気にならなくなりますよ」。不安と期待が入り混じる中、私はその提案を受け入れました。そして、カットが終わり、鏡に映った自分の姿を見た時、驚きで声が出ませんでした。そこには、私が思っていたような「寂しい」姿ではなく、軽やかで活動的に見える、新しい私がいたのです。もちろん、髪の毛の量が増えたわけではありません。でも、髪型一つで、こんなにも印象が変わり、気分が上がるものなのかと、心から感動しました。その日を境に、私は薄毛を隠すことではなく、自分を素敵に見せることに意識を向けるようになりました。明るい色の洋服を選んだり、新しいメイクに挑戦したり。薄毛というコンプレックスは、私に新しい自分を発見するきっかけをくれたのかもしれません。