広告代理店で管理職として働くA子さん(52歳)が、自身の髪の変化に愕然としたのは、ある朝のプレゼンテーションの準備中でした。鏡に映った自分の頭頂部が、蛍光灯の光を反射してキラリと光ったのです。「まさか」。それ以来、A子さんの頭の中は仕事の戦略よりも、どうやって薄毛を隠すかでいっぱいになりました。夜遅くまでの残業、付き合いの飲み会、休日は疲れて寝ているだけ。食事はコンビニ弁当か外食が当たり前。振り返れば、彼女の生活は髪にとって最悪の環境でした。更年期という年齢的な要因に、長年の不摂生が追い打ちをかけていたのです。このままではいけない。そう決意したA子さんは、まず自分の生活を徹底的に見直すことから始めました。最初に変えたのは食事です。どんなに忙しくても、朝食は抜かずに納豆ご飯と味噌汁を食べるようにしました。ランチは、外食でも定食屋を選び、魚や野菜の小鉢がついたものに。夜の飲み会は回数を減らし、自炊する日を増やしました。メニューは、髪に良いとされるタンパク質やイソフラボンを意識し、鶏むね肉と豆腐のヘルシーな鍋などを定番にしました。次に、運動習慣です。これまでは駅のエスカレーターを使っていたのを、すべて階段に変えることからスタート。週末には、一駅手前で降りてウォーキングする時間を設けました。体を動かすと気分がすっきりし、仕事のストレスも軽減されるという思わぬ効果もありました。そして、最も重要視したのが睡眠です。夜12時までには仕事を切り上げ、スマートフォンは寝室に持ち込まず、リラックスできる音楽を聴きながらベッドに入ることをルールにしました。生活改善を始めて三ヶ月が過ぎた頃、A子さんは抜け毛の量が少し減ってきたことに気づきました。半年後には、美容師から「根元に短い毛がたくさん生えてきていますね」と言われ、涙が出そうになったと言います。A子さんの髪が劇的に増えたわけではありません。しかし、髪にハリとコシが戻り、何よりも、自分の力で体調を整え、変化を実感できたという自信が、彼女の表情を以前よりもずっと輝かせていました。A子さんの事例は、更年期の薄毛が、生活習慣の見直しという地道な努力によって改善しうることを示してくれる、希望の物語です。